生活習慣病とは
人の健康に関わる要因としては、遺伝や年齢、性別など自分では変えられない遺伝的要因と、細菌やウイルスの侵入による外部環境の要因、そして食生活や運動などの生活習慣要因と、大きく3つに分けられます。このうち、生活習慣を主因として発症する疾病を生活習慣病と言います。日本人の死亡原因の3分の2は生活習慣病に起因するものと言われています。
生活習慣とは食事の内容や運動の有無の他に、喫煙や飲酒、さらには休養や睡眠のとり方などの習慣があげられます。これらにおいて、「健康的とは言えない生活習慣」を続けることで発症してしまうのが生活習慣病です。具体的な病名で言うと、「高血圧」「糖尿病」「脂質異常症」「高尿酸血症」などがあげられますが、これらは当初、自覚症状はないものの、放置しておくと動脈硬化を進行させ、脳血管疾患、心疾患に結びつく危険性があります。当院では、動脈硬化/血管機能の一つの指標であるCAVI/ABI検査を行っています。CAVI/ABI検査は脳血管疾患、心疾患の早期診断に役立ちます。
一方、この生活習慣病は、遺伝的要因や外部環境要因の病気に比べて、自らの生活習慣への取り組みで予防できるものでもあります。健康診断などで、検査の通知で異常を指摘されたら、一度、生活習慣を見直してみるのが良いでしょう。不安や気になる点がありましたら、早めにご受診ください。生活習慣病への取り組みは、早期に開始することが重要です。
主な生活習慣と、それによって引き起こされる可能性のある生活習慣病(遺伝的要因のものを除く)
- 食習慣
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- 高血圧
- 2型糖尿病
- 肥満
- 脂質異常症(高脂血症)
- 高尿酸血症
- 循環器病
- 大腸がん
- 歯周病 など
- 運動習慣
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- 2型糖尿病
- 肥満
- 脂質異常症(高脂血症)
- 高血圧 など
- 喫煙習慣
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- 肺がん(扁平上皮がん)
- 咽頭がん
- 食道がん
- 子宮頸がん
- 循環器病
- 慢性気管支炎
- 肺気腫
- COPD(慢性閉塞性肺疾患)
- 歯周病 など
- 飲酒習慣
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- 咽頭がん
- 食道がん
- アルコール性肝疾患
- 膵炎(急性、慢性) など
生活習慣病の予防はもちろん、すでに生活習慣病が進行してしまっている場合でも、治療と並行して生活習慣の改善を図ることは必要です。生活習慣病が重くなってしまうと、命に関わるだけではなく、要介護の状態を引き起こす場合もあり、生活の質は大きく下がってしまいます。健康寿命を延ばす意味でも、生活習慣の改善はとても重要です。
心がけたい生活習慣の改善
- 禁煙する
- 食事は食べ過ぎず、塩分や脂質を取りすぎないようにする
- アルコールは適量にする(※)
- 座りっぱなしではなく、なるべく立って歩き、できればウォーキングや軽い体操をする
- 自分に合った睡眠時間を確保し、休養、休憩をしっかりととる
- 多くの人にあったり、趣味を持ったりし、外からの刺激を受けたり、創造的な取り組みをしたりして、ストレスを溜めない
- 1日のアルコール量は20mg程度に(ビールなら中ビン1本、ウイスキーなら60mg、日本酒なら1合程度)
当院では、生活習慣病の予防及び治療に当たっては、患者さん一人一人の生活習慣をお伺いし、それぞれの状況に合わせて診療を行います。生活習慣の改善によるコントロールが難しい場合は投薬なども行い、より重篤な病気に進行しないようにしていきますので、一度ご相談ください。
高血圧
高血圧は、診察室血圧の収縮期血圧/拡張期血圧の両方あるいはどちらかが140mmHg/90mmHg以上の場合、高血圧と診断します。
また、近年、家庭血圧は診察室血圧よりも疾病リスクを予測するのに優れることが明らかにされ、高血圧の診断に家庭血圧も用いられるようになっています。家庭血圧の場合、135/85mmHg以上で高血圧と診断され、家庭血圧と診察室血圧による診断が異なる場合は家庭血圧による診断を優先されています。
高血圧が続くことで引き起こされる病気は数多くあります。血管の壁は本来弾力性があるのですが、高血圧で張り詰めた状態が続くと、次第に厚く、硬くなるという、いわゆる「動脈硬化」が起こります。この動脈硬化は太い血管にも、また微小な血管にも起こります。すると心筋梗塞や大動脈瘤、脳出血や脳梗塞、腎硬化症などを引き起こす原因となります。また心臓にも負担がかかり、心臓肥大が起こって、心不全を起こす場合もあります。高血圧は循環器系の病気を予防するためには。最大限に気を付けなければならない症状なのです。
高血圧の多くは「本態性高血圧症」と呼ばれる、原因がよくわかっていない高血圧です。
「本態性高血圧症」は遺伝的な因子に加え、生活習慣などが深く関わっていると考えられ、現在では生活習慣病のひとつとされています。関わっている生活習慣としては、塩分の過剰摂取、肥満、アルコールの過剰摂取、喫煙、カリウムなどのミネラル不足、運動不足、睡眠不足、自律神経の乱れ、精神的ストレス、寒冷などがあげられています。 「本態性高血圧」とは異なり、腎臓や副腎の病気などが原因で、血圧をコントロールするホルモンのバランスが崩れ血圧が上昇するものを「二次性高血圧症」と呼ばれています。これははっきりとした病気によるものです。若年発症、急な発症、治療に反応しない高血圧の場合に疑います。
日本人が高血圧予防で特に気を付けなければいけないのは、塩分の過剰摂取です。塩分を取りすぎると、それを薄めようと体内で水分が蓄積し、それが血管に流れ込んで血流量を増加させることにより、血圧が上昇します。すでに高血圧の櫃は1日の食塩摂取を6gにおさえることが推奨されています。
- 減塩のコツ
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- 漬物を食べ過ぎない
- 麺類は汁を残す
- 新鮮な素材の味を活かし、調味料を使いすぎない
- みそ汁は具を多くし、みその量を減らす
- 酢やケチャップなどの塩分が少ない調味料を活用する
- コショウや七味、ショウガなどの香辛料や香味野菜を味付けに活用する
- 外食や加工食品を控え、干物なども取りすぎないようにする
また喫煙するとニコチンの影響で血管が収縮し、一時的に血圧が上がります。さらに喫煙によって血液がどろどろになって血流が滞り、動脈硬化や血栓の原因ともなってしまいますので、ぜひ禁煙しましょう。また大量の飲酒は血圧をあげるので、適量にとどめます。
生活の中で飲食や喫煙などの生活習慣に加えて、もうひとつ注意したいのが寒さへの対策です。暖かいところから急に寒い所へ出ると、血管が収縮し血圧が上昇します。いわゆるヒートショックで、冬場は特に室内と室外の温度差が大きくなるので気を付けましょう。外出時はマスクやマフラー、手袋などで肌の露出部分を少なくすることが大切です。またリビングと浴室やトイレとの温度差も少なくするようにしましょう。入浴では寒い脱衣所で服を脱ぐと血圧が上昇し、熱い湯船に入るとさらに上昇します。そして風呂から上がると血圧は大きく低下します。脱衣所や浴室はなるべく暖かくし、お湯は40℃くらいのぬるめにして、あまり長湯をしないようにしましょう。
高血圧は基本的に生活習慣の見直しを通じて改善を図っていきますが、長期にわたり改善しない場合、あるいはほかに疾患が見られ、早期に高血圧を解消する必要があるときは、薬物による治療を行います。使用する第1選択薬としては、血管を広げて血圧を下げる「カルシウム拮抗薬」、血管の収縮を抑え、腎臓の機能も守る「ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬))、血圧を上げる物質の作用を抑える「ACE阻害薬」、減塩が困難な患者さんに対し尿からの塩分排出を促す「利尿薬」等があります。薬の使用に際しては、一人一人の患者さんの症状や体の状況に合わせ、これらの第1選択薬を単独もしくは併用していきます。
糖尿病
糖尿病とは、血液中の血糖値が通常よりも慢性的に高くなる病気です。食事によって摂取された栄養はブドウ糖などになり、血液中に流れ込みます。これを感知すると膵臓からインスリンが分泌され、ブドウ糖をグリコーゲンというエネルギー源に変換したり、脂肪として蓄えられるようにしたりします。この時、インスリンの分泌量が少ない、あるいはインスリンの働きが低下すると、血管内に糖が変換されずに溢れ、血糖値が高まります。
脂質異常症(高脂血症)
脂質異常症とは、血液中の脂質の濃度が基準の範囲内にない状態のことを指します。基準範囲内にない異常な状態が続くと、動脈硬化を引き起こし、そこから重篤な心疾患や脳疾患を招く危険性があります。脂質異常症には3つの種類があり、それぞれ血液中の脂質の濃度が、以下のような基準を超える、あるいは届かないと、それぞれ診断されます。
- LDLコレステロール値≧140mg/dL →高LDLコレステロール血症
- 中性脂肪≧150mg/dL →高トリグリセライド血症
- HDLコレステロール値<40mg/dL →低HDLコレステロール血症
LDLコレステロールとは、体の隅々までコレステロールを運ぶ働きをしているもので、一般に悪玉コレステロールとよばれているものです。またHDLコレステロールは、体に余ったコレステロールを回収する働きをしているもので、善玉コレステロールとよばれています。また中性脂肪(トリグリセライド)は重要なエネルギー源ですが、取りすぎると消費されず、肝臓や血中に蓄えられ、多くは皮下脂肪となって肥満の原因になります。
悪玉コレステロールが多かったり、善玉コレステロールが少なかったりすると、血液中にコレステロールや中性脂肪が増え、いわゆる血液がどろどろの状態になります。そうなると動脈硬化が進んで、血管内の狭窄や血栓による詰まりが起こりやすくなり、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞や脳出血の危険性が高まります。他の生活習慣病同様、脂質異常症には自覚症状がありません。ですので、健康診断等で脂質異常が指摘されたら、それを真剣にとらえて、改善に取り組むことが大切です。
脂質異常症の改善に当たっては、食餌療法が最も重要です。動物性脂肪である肉や卵、ラード、バター、乳脂肪などはコレステロールや飽和脂肪酸を含み、過剰に摂取するとコレステロール値を高めますので、摂り過ぎに注意が必要です。逆に食物繊維を多く含む野菜やキノコ、海藻類を摂り、バランスの良い食事を心がけると、中性脂肪(トリグリセライド)を減らしHDL(善玉)コレステロール濃度を上昇させるとされています。さらに豆腐や納豆などの大豆製品は、脂質の値を下げたり、動脈硬化抑制する働きがあるので、タンパク質として積極的に摂るようにしましょう。また青魚などに含まれるEPAやDHAといった不飽和脂肪酸にも同様の効果があります。
食習慣以外では、喫煙習慣のある方は、禁煙することが大事です。喫煙は善玉コレステロールを減らし、悪玉コレステロールの酸化を促進して動脈硬化の原因になるとされています。アルコールは摂り過ぎると中性脂肪を増やしてしまいますので、適量に抑えるようにします。またストレスにはコレステロールを増加させるという側面もありますので、なるべく規則正しい生活をし、ストレスを溜めないようにすることが重要です。また運動することは、中性脂肪を減らし、善玉コレステロールを増やす効果がありますので、ウォーキングや体操など、ちょっとしたことでも体を動かす習慣をつけていきましょう。
生活習慣の改善を通しても脂質異常症の改善が見られない場合、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こしてしまった場合は、LDLコレステロール値を下げる薬剤などによる治療を行います。患者さん一人一人の症状や状況に合わせて処方いたしますので、医師の指示に従っての服用をお願いします。
高尿酸血症
高尿酸血症とは血液中の尿酸が基準値よりも高い状態(血中の尿酸値が7.0mg/dl超)のことです。この状態が続くと、痛風や腎臓結石などの原因にもなります。尿酸とは、細胞の代謝や体を動かすエネルギーとして重要なプリン体を分解したときにできる老廃物で、通常は腎臓から排泄されます。これが何らかの理由で腎臓からの排泄が低下したり、プリン体を過剰摂取することで尿酸の生産が増加したり、その両方であったりすると血中の尿酸値が上昇し、高尿酸血症となります。また高尿酸血症は、男性に圧倒的に多く、女性に少ない病気となっています。これは女性ホルモンが尿酸値をコントロールするためと考えられており、女性ホルモンが減少する閉経後には、女性でもやや増加する傾向にあります。
高尿酸血症だけでは自覚症状はありませんが、その状態が続くと、尿酸が結晶化し、関節、特に足の親指の付け根などに蓄積されます。この結晶を体が異物と捉え、免疫反応により炎症が起きて痛みをもたらします。これが「痛風」です。足指の他、膝やくるぶしなどにも発症し、強い痛みの他、赤くなったり、熱や腫れを持ったなどの症状が現れます。症状自体は数日で収まりますが、原因である高尿酸血症を放置しておくと、何度も痛風を発症し、関節が変形したり可動域が狭くなったりしてしまいます。
また、尿酸の結晶が腎臓に溜まると、結石ができ、背部痛を起こすことがあります。さらにその結石が尿管や膀胱に移動すると、その部分に激痛を引き起こします。これが尿路結石です。腎臓結石も繰り返してしまうと、腎機能の低下を招きますので、高尿酸血症の治療が望まれます。
高尿酸血症の治療としては、生活習慣の改善が中心となります。また痛風を引き起こしてしまった場合は、薬物療法を行います。
生活習慣の改善に関しては、まず食事療法が重要です。プリン体を多く含むものを避けるようにします。100gあたり200mg以上含むものは高プリン体食品に該当し、レバーやカツオ、マイワシ、白子などがあげられます。1日あたりの摂取量が400mgを超えないことが目標とされています。また肥満は高尿酸血症に密接にかかわっていますので、カロリーは散り過ぎず適切な量を摂取します。さらにアルコールは血液中の尿酸値を上昇させ、痛風の頻度が高まるとされています。プリン体オフをうたっているものもありますが、アルコール自体が尿酸値を上昇させますので、飲み過ぎず、こちらも適量にしましょう。
当院では患者さんの状況に合わせ、食事指導などの生活指導を通じて診療をいたしますが、痛風の発作を繰り返すようであれば、尿酸排泄促進薬や尿酸生成抑制剤。尿アルカリ化薬などを処方します。また痛風の痛みを緩和するために非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を併用する場合もあります。